1-16『草風の村の戦い』
捜索分隊は村の探索を開始。指揮車が先行して道を進み、その後方を混成分隊が続く。普通科と小型トラックは一番後ろに位置し、重機で先行を援護する。
武器C「ひでぇな」
とうに日は落ちたというのに、村の中は各所から上がる火によって、明るく照らされていた。
砲隊A「荒れまくりだな」
通隊A「倒れてるの、ここの住人か……?」
砲隊A「……息がない」
所々に、村の住人と思われる亡骸が横たわっている。そして家屋の内部を覗き込めば、そのほとんどは荒らされていた。
82車長「前方に十字路だ。先に出るぞ、援護を頼む」
砲隊A「了解、各員周囲を警戒しろ」
指揮車は建物の影から、前方の十字路の中心へ出る。
82操縦手「車長、車内に入ってください」
82車長「気が進まねぇな、ペリスコープじゃ見通しが悪い……」
82操縦手「矢を受けてからでは、元も子も無いと思います」
82車長「ああ、分かったよ」
82車長が車内へ引き込もうとした時だった。
82車長「あ?」
一瞬、前方右側の家屋で何かが点滅した。82車長がそちらに視線を向けると――
82車長「は――はぁッ!?」
目に移ったのは、こちらへ向けて飛んでくる、直径1mはあろうかという炎の玉だった。
飛来した炎の玉は、指揮車の前方右側面に直撃した。
82車長「ど熱ッち!?糞ッ!」
幸い82車長に直撃はしなかったが、彼はその熱から逃れるため、大慌てで車内へと引き込んだ。
隊員C「おげぇッ!?」
支援A「なんだぁ、今のはぁッ!?」
その様子は後続にも当然確認できていた。
82操縦手「ふざけてるッ!」
82操縦手は指揮車を後進させ、指揮車は建物の影へと引き込んだ。
82操縦手「ッ!車長、生きてますか!?」
82車長「ありえねぇ……大丈夫だ、そっちは!?」
82操縦手「こっちは平気ですが……今のは!?」
82車長「炎の玉、火炎攻撃だ!クソッタレ!」
悪態を吐きながら車上へと上がる82車長。指揮車の被弾した箇所は、塗料が焦げていた。
自衛「82車長、黒焦げにはなって無ぇようだな!」
82車長「あぁ……だが、最高にふざけてやがるぜ……!」
武器C「おい、また来るぞ!」
驚愕するこちらをよそに、またしても炎の弾が襲い来る。
武器C「どぉわ!?」
砲隊A「奥だ、奥に隠れろ!ヤツの視界に入るな!」
今度はこちら側の家屋に直撃、壁の一部を焦がした。
隊員C「ッ……炎だけみてぇだな、燃焼剤とかをぶちまけてる分けじゃねぇ」
砲隊B「けど直撃すりゃ一発で火達磨だぞ……」
砲隊A「どっからだ、一体?」
武器C「おそらくあそこです、向かいの建物の三階――ッ!」
覗き込んだ武器C等に向けて、今度は矢が降り注ぐ。
砲隊B「弓兵もいるぞ……クソッタレ!」
自衛「黙らせるんだ!誰かてき弾をあそこに叩き込め!」
武器C「俺が!」
自衛「隊員C、支援A。てき弾を叩き込まれた瞬間を突いて、向こうまで行くぞ!」
隊員C「マジかよ」
自衛「家を押さえて安全と周辺視界を確保、ついでにふざけた野郎の面を拝むんだ。接近戦に備えろ、他は突っ込む時に援護を頼む」
82車長「オーケー」
隊員C「ッ、分ーったよ」
自衛「衛生、お前は消火器を用意しとけ、無いよりはマシだ。それと、絶対に指揮車より前に出るな」
衛生「分かりました、気をつけて下さい」
武器C「てき弾、準備完了」
武器Cがてき弾を装填した小銃を手に、建物の影で待機している。
自衛「隊員C、支援A、備えろ。よぉし、やれ」
武器C「了解――くらいやがれッ!」
武器Cは遮蔽物からわずかに身を乗り出し、家屋に向けて引き金を引く。
撃ち込まれたてき弾は、反対側の建物の三階窓へ飛び込み、内部で炸裂した。
自衛「行け、行け!」
支援A「ヒッハァー!」
同時に自衛等が道へと飛び出す。
砲隊A「支援射撃!」
自衛等が飛び出すのに合わせて、砲科分隊は建物三階に向けて射撃を開始。
支援射撃の元、自衛等は道を横断、反対側の建物の元へとたどり着いた。
隊員C「おい、さっきの少しズレてなかったかぁ?」
てき弾は三階に飛び込み、少し奥で炸裂した様だった。隊員Cは、それによる殺傷効果の不足をぼやく。
自衛「てき弾はあくまで目くらましだ、俺等が仕留めるんだ。それより窓をやれ」
隊員C「へーへー、オラッ!」
窓を破り、隊員Cが先に内部へ突入。薄暗い部屋の中を確認する。
隊員C「ッ!……誰もいねぇ!」
自衛「廊下に出ろ、一階を洗いながら階段を探せ」
自衛と支援Aが続いて内部へと入り、一階の探索を始める。面積の広い家ではなく、一階はすぐに無力化した。
隊員C「一階は空だぜ、荒れ放題だけどな」
支援A「ヘイ!こっちに階段あったぜぇ!」
自衛等は二階への階段前で集結する。
その時、外から微かに炎が燃え盛るような音が聞こえた。
隊員C「ッ!おい、今の……」
次いで、インカムに通信が入る。
82車長『自衛、聞こえるか?上からまた火炎攻撃だ!上の連中まだ生きてるぞ!』
隊員C「チッ!見ろ、やっぱりだぜ!」
支援A「隊員C、お前ぇの予感はいっつも当たるよな。嫌な事だけだけどよぉ!」
隊員C「うっせぇな黙ってろ!」
自衛「隊員Cの予感がどうだろうと、ヤツ等は黙らせるんだ。行くぞ」
隊員C「へいへい、前向きでうらやましいね、糞!」
自衛が先に立ち、二階への階段を上る。
傭兵P「ッ!?」
上がり切った所で、近くの部屋から出てきた傭兵と鉢合わせた。
傭兵P「入り込まれた!?ッ、うおぉッ!」
傭兵は手にした剣を振りかざし、切り掛かって来ようとする。
自衛「邪魔だどけ」
傭兵P「ぐぁっ!?」
しかし傭兵は接近する前に射殺された。自衛は傭兵の体を脇へを転がす。
自衛「支援A、階段見張ってろ。先に二階を掃除する」
支援A「任せとけ」
自衛「隊員C、そこの部屋はどうだ?」
自衛は手前の部屋を覗き込んでいる隊員Cに問う。
隊員C「空だ、ひでぇ荒れようだがな」
自衛「よぉし、奥の部屋を片付けるぞ」
自衛と隊員Cは奥の部屋の入り口へと走る。そしてドアを突き破り、自衛が押し入った。
傭兵Q「!?」
部屋内に居た傭兵は三名、いずれも突然の乱入者に驚愕する。
傭兵Q「なッ!傭兵Pはやられたのか!?」
傭兵R「ッ!うぉぉッ!」
即座に一人の傭兵が、抜剣し迫ってくる。
傭兵R「がっ!?」
が、自衛の撃った小銃弾の餌食となった。
傭兵S「な!?あがっ!?」
自衛は続けて斜め後ろに居た傭兵を射殺。
傭兵Q「クソォォッ!」
隊員C「うぜぇんだよッ!」
傭兵Q「ごッ!?」
最後の一人の傭兵が間近に迫っていたが、それは後続の隊員Cに射殺された。
隊員C「ボケがッ!」
自衛「よぉし、他にはいねぇ」
部屋内にそれ以上の傭兵の姿は無かった。その部屋の中も、他の家屋同様ひどく荒らされていた。
隊員C「片っ端から引っくり返してやがる、コイツ等何を漁ってたんだ?」
自衛「さぁな。それよか、先に上の不愉快な連中を片付けるぞ」
自衛等は部屋を出て、階段へと戻る。
支援A「ヘーイ!お掃除は完了ォかぁ?」
自衛「片付いた、三階にお邪魔するとしようぜ」
建物三階の部屋。部屋内には二人の傭兵の姿があった。
傭兵魔道士「ッ…一体なんなんだアイツ等…!?」
傭兵T「火炎攻撃も利かなかった……信じられん……」
この部屋で見張りをしていた彼等だったが、窓から叩き込まれたてき弾の炸裂で、見張りの傭兵の一人が死亡。その傭兵の亡骸は部屋の隅で横たわり、生き残った二人の傭兵も満身創痍の体だった。
傭兵魔道士「……入り口のほうから来たぞ……見張りの連中はどうしたんだ!?」
傭兵T「分からん……だが何にせよ、我々の姿を見られた以上は始末する。応援が来るまで堪えるぞ!」
傭兵魔道士「分かってる!……炎の精霊よ、我が身に……」
傭兵魔道士が再度、火炎攻撃を仕掛けるべく詠唱を始める。だがその次の瞬間、彼らの背後、廊下に面する部屋の壁が突然破られる。
支援A「こん、ばん、わぁぁぁッ!!」
そして、支援Aが奇声と共に踏み込んできた。
傭兵T「なッ!?――がっ!?」
そして彼等が対応する前に支援AのMIMIMIが火を吹き、手前に居た傭兵は銃弾を受けて血を噴き出した。
傭兵魔道士「傭兵Tッ!?くそッ!」
即座に傭兵魔道士は短剣を抜き、支援Aへ飛び掛ろうとする。
傭兵魔道士「いぎッ!?」
だがその前に発砲音が響く。傭兵魔道士は、支援Aの後ろから入ってきた自衛によって無力化された
支援A「サプライズのお返しだぜぇ!ヤツ等ビビッたかなぁ!?」
自衛「知るか。それより、部屋を調べろ」
他にも敵が居ないか三階を捜索するが、敵は発見されず、建物の安全は確保された。
支援A「死体が三つだけだ、他は誰も居ねぇみてぇだぜ」
自衛「よぉし、いいだろう」
一方、脇では隊員Cが遺体の一つを調べている。それは傭兵魔道士の亡骸だった。
支援A「何してんだ隊員C?」
隊員C「こいつを見ろ。ほかのヤツに比べて軽装で、妙なローブ被ってやがる。弓も持ってねぇ。想像するに、コイツが火の玉をブン投げて来たんだろうよ」
支援Aは遺体の顔を覗き込む。
支援A「あー?普通の人間じゃねぇかぁ。どんなバケモンが吐き散らかしてんのかと思ったのによ」
隊員C「魔法使いってヤツだろ、鍛冶妹のとかと同じな。夢見るクソファンタジーの専売特許だ」
隊員Cは皮肉な口調で言い捨てながら、傭兵の亡骸の目を閉じた。
自衛「その辺にしとけ。ハシント、屋上のヤツを排除した。前進を……」
自衛は指揮者の82車長に通信で合図を送ろうとした。しかしそれを遮るように、外から爆発音がし、窓の外が一瞬赤く光った。
支援A「ワオ!?な、なんじゃぁッ!?」
窓の付近から炎が上がり、窓枠が燃えている。外の壁に火炎玉が命中したようだ。
自衛「火炎弾だ!どっから撃ってきやがった!?」
隊員C「おい!もう一発来るぞ!」
隊員Cが窓の外を示す。そちらへ目を向けると、巨大な火の玉が窓の直前まで迫ってきていた。
支援A「マジかよッ!?」
自衛「部屋の奥へ退避しろォ!」
自衛が叫んだ直後、炎の玉は窓から飛び込み、近くの棚に直撃して燃え上がった。
隊員C「おぉわぁぁ!?」
支援A「ファーオウッ!?」
自衛等は吹っ飛ぶように部屋の奥へと転がり込み、炎と熱から逃れた。
隊員C「べっ!クソッタレが!炭火焼になっちまう所だったぞ!!」
支援A「ウェルダンをオーダーした覚えは無ぇぜぇッ!?」
自衛「糞が、だが位置は特定できた。ふざけた注文ミスしやがってェ! 」
82車長『自衛応答しろ!おい無事か!?』
地上からもその様子は当然見えていたようで、インカムから82車長の安否確認の声が飛び込んで来た。
自衛「あぁ、生きてる!それより報告訂正だ!左斜めの建物屋上にもう一匹居る、その場で待機しろ!」
自衛等は起き上がり、火炎玉の着弾箇所に目を移す。直撃を受けた棚は燃え上がり、あっという間に黒焦げになってゆく。
隊員C「おぉい、あんなんをバカスカ撃たれたら洒落になんねぇぞ!」
自衛「あぁ、とっとと仕留めるぞ。こっからじゃ不利だ、隣の家に移れ!」
自由等は部屋を出て廊下を北側に進む。そこで、隣の家に面した窓を見つけた。
自衛「こっから移れる、行くぞ!」
自衛は窓を破り屋根の上に飛び出る。そして屋根伝いに隣の家へと移り、そこにあった屋根窓を蹴破り、中に飛び込んだ。
自衛「急げ!」
支援A「うぉおぅッ!やべぇぜ!」
支援A、隊員Cと続いて隣の屋根へ飛び移って行く。
隊員C「うぉぁッ!?」
最後の隊員Cが隣の屋根に移った瞬間、先程までいた家屋の窓に、火炎弾が直撃した。
隊員C「熱っち!野郎ッ!」
隊員Cは炎から逃れるように、窓から部屋へと飛び込んだ。
隊員C「マジでイカれてやがる!」
支援A「頼んでもねぇのに追加がくるぜぇ!」
隊員C「でぇ、どうすんだよオイ!?」
自衛「隊員C、お前は一階に降りて無反動砲を用意しろ。榴弾を叩き込んでヤツ等を黙らせるんだ」
隊員C「ちょい待て、道に姿を晒せってのか!?ヘタすりゃ黒焦げになっちまう!」
自衛「俺等がこっからヤツ等を引き付ける。その隙を見て撃つんだ、行け!」
隊員C「あー、クソ。やりゃいいんだろ!」
ぶっきらぼうに了解した隊員Cは、階段で下階へと降りて行った。
自衛「支援A、反対の家に集中砲火だァ!!」
支援A「お返しだぜぇ!」
自衛等は窓際の壁に隠れ、交戦を開始。斜め向かいの建物に向けて銃弾を注ぐ。
支援A「フォウッ!」
銃撃開始と数秒差で、火炎弾が飛来する。だが火炎弾はこちらの屋根を飛び越えて、明後日の方向へ飛んでいった
支援A「ハハァ!ヤツ等もびっくらこいたらしいな!」
自衛「ヤツ等に照準する隙を与えるな!」
火炎弾は外れたが、続いて飛んできた矢が建物の壁に突き刺さる。
支援A「ファォッ!今度は矢がデザートで飛んできやがった!」
自衛「ヤツ等、炎を使うヤツと弓兵をチームで運用してやがるらしいな」
自衛は向こうの建物に向けて発砲、向こうの窓から、矢を放とうとしていた傭兵を射殺した。
支援A「ナーイス!まるでモグラ叩きだなぁ!」
自衛「撃ち続けろ、頭を上げさせるな!」
十字路を挟んで弾丸と矢が飛び交う。そしてまたしても、火炎弾がこちらへと飛来した。
支援A「まぁたバーニングだぁッ!!」
自衛「カバーしろ!」
飛来した火炎弾は下の階に着弾、建物の壁を焦がした。
支援A「ウワォ!たまんねぇスリルだなぁ!」
自衛「図に乗りやがって――隊員C、まだか?」
隊員C『もう少しだ、待ってろ!』
支援A「とっととしろよなぁ!隊員C!」
隊員C『黙ってろ!……よし、ほれ行くぞォ!』
敵の目が三階にいる自衛等に向いている隙を突いて、建物一階の玄関に身を隠していた隊員Cが道へと飛び出す。そして建物に向けて無反動砲を構え、引き金を引いた。
無反動砲の砲口から多目的榴弾が撃ち出され、竹泉の背後にバックブラストが広がる。撃ち出された榴弾は斜め向かいの建物へと飛び、窓から内部へと飛び込み、炸裂。内側から建物を吹き飛ばした。
支援A「フォーゥッ!」
隊員C『……どうよ?』
自衛等は、正面が崩落して煙を上げる建物を凝視する。火炎弾も矢も飛んで来る様子は無く、建物からの攻撃は沈黙していた。
自衛「あぁ、黙ったみてぇだ。中を確認するぞ。支援A、こっから支援しろ。俺と隊員Cで調べてくる」
支援A「任せな」
自衛は一階へ降りて隊員Cと合流すると、支援Aの支援の元、十字路を渡る。向かいの建物の入り口へと走り込んだ。
自衛「どぉらッ!」
扉を壊して中へと押し入り、一階を探索する。
隊員C「一階はクリアだぜ」
自衛「おし、上だ」
一階の安全確保を終え、二階へと上がる。
隊員C「ッ、わーお…」
自衛「こりゃ派手に吹っ飛んだな」
榴弾の直撃により二階の天井は壊れ、二階と三階は筒抜けになっていた。
隊員C「生きてるヤツは……いるわけねぇか」
そして部屋内には、榴弾によって倒れた傭兵達の亡骸が横たわっていた。
自衛「ハシント、片付いたぞ。先の十字路までは大丈夫だ」
82車長『了解、前進する』
先の場所から、指揮通信車と小型トラックが混成分隊に護衛されながらこちらまで来る。
指揮通信車は、自衛等のいる建物の近くで停車した
82車長「大丈夫か?」
82車長はキューポラから顔を出し、安否を尋ねて来る
自衛「一応な」
82車長「こっからも見えてたぞ、火炎が冗談みたいに飛び交ってたな」
自衛「あぁ、焼き加減ってヤツをわかってねぇ連中だったぜ」
隊員C「何言ってやがんだ、どうかしてるぜ……!」
悠長に言う自衛に、心底ウンザリした口調で吐き捨てる隊員C。
82車長「で、こっからどうする?」
自衛「分かれて調べよう。俺等は建物の中を進んで、にも似たようなヤツがいねぇか探す」
82車長「よし、じゃあ俺達は集落の中央に向ってみる」
自衛「十分警戒しろ。衛生、お前も指揮車についてけ」
衛生「分かりました、気をつけて」
82車長「混成分隊、前進するぞ」
車列は十字路を西へと曲がり、中心部向けて走り出した。
自衛「よぉし支援A、こっちに合流しろ。俺等は北側を漁るぞ」
支援A『へいよぉ』
車両と混成分隊は集落の中心部を目指し、道を進んでいた。
砲隊A「ん……?待った、停車を」
道を曲がったところで砲隊Aがそう言い、合図を出した。指揮通信車は停止し、混成分隊は道の両脇へと隠れる。
通隊A「どうした?」
砲隊A「前方見ろ、人影が複数」
砲隊Aが示した先に複数の人影が見える。そして聞こえてくるのは金属のぶつかり合う音。
砲隊A「戦ってんのか……?三曹!」
82車長「見えてる。ヤツ等と……ここの住民みたいだな。……やばいな、押されてるみたいだ!」
武器C「やばいんじゃねぇか?撃っていいか!?」
砲隊A「よせ、住民に当たったらどうする!」
武器Cが構えたMINIMI軽機を、砲隊Aが押さえる。
82車長「接近するしかねぇ、誰か車上の軽機に着け」
砲隊A「砲隊B、行け!」
砲隊B「了解」
砲隊Bは指揮車の上へとよじ登り、車体前方のMINIMI軽機に着く。
82車長「指揮車で先に突っ込んでヤツ等を分断する、後から援護頼むぞ」
砲隊A「了解!」
82車長「おし!82操縦手、突っ込め!」
82操縦手「了」
指揮車は戦闘の中へ割り込むべく、走り出した。
草風B「ッ!クソ!」
草風C「ッ……野郎……」
二人の村人が10名以上の傭兵に囲まれていた。そして彼等の足元には、村人の亡骸と傭兵の亡骸が入り混じり横たわっている。
傭兵U「この野郎ッ!」
草風C「だぁッ!」
傭兵U「ぎゃ!」
草風Cが、向ってきた傭兵の一人を切り捨てる。
傭兵V「おらぁぁッ!」
草風C「しまッ!……ぐぁッ!」
だが、次に迫ってきた傭兵への反応が送れ、草風Cは体を切り裂かれて地面へと崩れ落ちた。
草風B「草風C!……くそォ!」
傭兵達に対して抵抗を続けて来た彼等だったが、体は傷だらけで、体力も限界に達していた。
傭兵V「クソ、手こずらせやがって!」
傭兵W「あとコイツだけだ!」
草風Bを囲いだす傭兵達
草風B「ッ……!」
その状況に草風Bは、これまでかと覚悟を決めようとした。
草風B「?」
だが突如、その場に聞きなれない音が割り込んで来た。
傭兵X「お、おいなんだあれ!?」
傭兵の一人が道の先を示す
草風B「!?」
そして彼等の目に入ったのは、道の先から猛スピードで迫って来る奇怪な物体だった。
傭兵集団A「な!?――ゲッ!?」「がぁッ!」
謎の物体はそのままのスピードで傭兵達へと突っ込み、傭兵を数人跳ね飛ばす。そして傭兵と草風Bを分断するように停止した。
草風B「な!?なんだ……!?」
82車長「よし撃てッ!」
砲隊B「了!」
呆気にとられている傭兵達に向けて、砲隊BはMINIMI軽機の引き金を引いた。
傭兵集団B「ぎゃ!?」
「げ!?」
「いぎ!」
草風B「な……!?」
至近距離から叩き込まれた銃弾に、傭兵達はみごとに薙ぎ倒されてゆく。
傭兵V「な、なんだぁ!?」
傭兵W「こ……殺せ!殺るんだ敵だ!」
傭兵達は事態を理解し切れていなかったが、ただ目の前の物体が敵だと認識し、一斉に向って来た。
傭兵V「ギャ!?」
だが後続の混成分隊が指揮通信車の両脇へ展開し、傭兵達に十字砲火を浴びせる。
砲隊A「落ち着いて撃て、近いからってビビるな!」
傭兵W「ぎゃぁッ!?」
傭兵X「うがぁッ!?」
傭兵達は果敢に向ってきたものの、密集していたのが災いし、銃火の前に次々と倒れていった。
砲隊B「……一掃しました」
82車長「周辺警戒!生存者がいないか確認しろ!」
傭兵達の一掃が終わり、隊員達は次の行動へと移って行く。
武器C「……おい、まだ息のある住人が居るぜ!」
衛生「待ってくれ、今行く!」
草風B「……」
その様子を見ながら、脇で立ち尽くしている草風B。
砲隊A「おいあんた、大丈夫か?」
草風B「ッ……!」
砲隊A「っと!」
そこへ砲隊Aが近寄ろうとしたが、草風Bは彼に向けて剣を向ける。草風Bのその目には警戒の色が浮かんでいた。
砲隊A「落ち着け姉ちゃん、敵じゃない。俺達は――」
警戒の色を見せる草風Bに、説明しようとする砲隊A。だが次の瞬間、草風Bは崩れるように地面へと倒れこんでしまう。すでに彼女の体力は限界だったのだ。
砲隊A「おい、あんた!ッ……衛生、来てくれ!」
砲隊Aは言いながら、草風Bへと駆け寄る。
砲隊A「おい、しっかりしろ」
草風B「あ……あんた達は……?」
砲隊A「大丈夫だ、危害を加えたりはしない。今、手当てしてやるから待ってろ」
衛生「お待たせしました」
衛生がその場に駆けつけ、応急処置を始める。
衛生「酷いな……まず腕から止血を……」
草風B「な、納屋に……行かなきゃ」
弱弱しい声で草風Bが言ったのは、その時だった。
砲隊A「あ?」
草風B「この先の納屋……守らないと……」
衛生「納屋?」
82車長「どうした?」
様子に気付き、車上から82車長が声を駆けて来る。
砲隊A「この姉ちゃんが、納屋がどうとか……」
草風B「お願い……皆が……ッ」
草風Bは息も絶え絶えの状態で必死に訴えてくる。
砲隊A「ああ分かった、俺達がなんとかする。だから無理にしゃべるな」
砲隊Aはそんな草風Bを落ち着かせてから、82車長へと向き直る。
82車長「納屋ねぇ……」
砲隊A「どうします?アレならこの先を見てきますか?」
82車長「そうだな……頼めるか?」
砲隊A「了解。武器C一緒に来てくれ、この先を調べに行くぞ」
砲隊Aと武器Cは偵察のため、先程の地点から更に北へと進む。しばらく進むと、進行方向に開けた場所が見えてきた。
砲隊A「待て」
一度歩みを止め、砲隊A等は近くの家屋の身を隠してそこから先を覗く。
砲隊A「たぶんあれだな」
視線の先には、先の村人が言っていた物と思われる納屋があった。
砲隊A「敵の姿は見えないな……行くぞ」
二人は家屋の影から飛び出て納屋まで走る。入口の近くへ到達すると、一度壁に張り付いて突入の準備を整える。
砲隊A「よし、援護頼む」
武器C「了解」
そして砲隊Aは納屋の戸を蹴破って、内部へと押し入った。
傭兵Y「!?」
傭兵Z「な!?」
内部へ踏み込んだ瞬間、砲隊Aは二名の傭兵と鉢合わせる。
傭兵Y「ぎゃぁ!?」
砲隊Aはすぐさま発砲、自分の近くに居た敵を射殺。
傭兵Z「グァッ!?」
そして砲隊Aに続いて入った武器Cが、もう一人を仕留めた。
砲隊A「……他には!?」
武器C「……いません。コイツ等だけみたいです」
他に敵がいないのを確認し、内部を見渡す。しかし外見と同じくいたって普通の納屋で、特に変わった所は見受けられない。
砲隊A「特になんも無いみたいだが……」
武器C「コイツ等はここで何してたんだ?」
転がった傭兵達の死体に視線を向ける武器C。その近く、納屋の隅には大きな箱がいくつか並べて置かれている。傭兵達はその近くで何かをしていたようだった。
武器C「……ん?砲隊A士長。この箱の下、なんかあります」
武器Cは少しずれた箱の下から、何かが覗いているのに気付いた。
砲隊A「あー……?どかしてみる、見張っててくれ」
砲隊Aは体重をかけて、箱を押し退ける。
砲隊A「……こりゃ扉だ」
箱を退かして現れたのは、地面に作られた扉だった。扉を開けると、そこから地下へと続く階段が続いていた。
武器C「地下の倉庫か?」
砲隊A「行ってみよう、後ろを頼む」
武器C「陰気だなこりゃ……」
二人は警戒しつつ階段をゆっくりと降りてゆく。降りて行った先には更に扉があった。
砲隊A「開けるぞ、援護を」
武器C「了解」
武器Cが扉に向けて軽機を構える。そして砲隊Aが扉に体当たりをかました。
砲隊A「っとぉ!」
扉の向こうへ踏み入ると同時に、砲隊Aは即座に銃口を向ける。
砲隊A「……あ?」
草風D「ひ……あぁ……」
草風E「ッ……!」
しかし、その先で出くわしたのは、多数の女子供と数人の老人や怪我人だった。
武器C「なんじゃこりゃ……」
唐突に出くわしたその光景に、目を丸くする武器C。
砲隊A「成る程、皆≠ゥ……。戦えない住人をここに隠したんだろう」
砲隊Aは地下の部屋内を見渡しながら呟いた。
草風E「見つかった……!」
草風F「剣を……ッ!」
一方の住民達、特に女子供の顔には恐怖の色が浮かんでいた。そして数人の負傷している男性は、自らの怪我にもかかわらず、武器を手にしようとする。
砲隊A「待て、待て!早まるな、落ち着いてくれ!俺達は敵じゃない」
そんな村人達の様子に、砲隊Aは彼らを宥めるべく、慌てて両手を掲げて声を発した。
草風D「え……?」
その言葉に、村人たちのざわめきが一度収まる。
砲隊A「それに、ここを襲ってる連中の仲間でもない。 俺達もヤツ等に襲われ……」
草風E「う、嘘!」
砲隊Aは言葉を続けようとしたが、しかし一人の村人が、砲隊Aの言葉を遮り声を上げる。
草風E「今の状況でこの村にいるなんて……村人以外はヤツ等かしか考えられない……!」
そう言い放った村人は、短剣を握り締めてこちらを睨む。
草風E「そう言って騙して、私達を殺す気でしょう……商議会の手先なら、やりかねない!」
草風G「そんな……」
恐怖と不安のせいで猜疑心の強くなっている住人達は、 砲隊Aの言葉を鵜呑みにする気は無いようだった。そして村人達の間で再びざわめきが起こりだす。
武器C「おぉい、そんな言い方ぁねぇだろう!? こっちだって大変だったんだぞ!」
その時、そんな住民達の態度に不服を抱いた武器Cが、声を荒げた。
草風D「ひっ!?」
草風G「ッ!」
武器Cの一声に、村人たちは委縮し、静まり返ってしまう。
砲隊A「ッ!武器C――!アホお前ッ、何を考えてんだ……ッ!」
村人たちに向けて声を荒げた武器Cを、砲隊Aは焦った様子で叱咤する。
武器C「けどッ!」
砲隊A「彼らの心情を考えろ!ったく……お前は上を見張ってろ。 彼等には俺から説明する」
武器C「ッ、了解……!」
砲隊Aは武器Cの背中をやや強引に押し、地上の警戒に向かうよう促す。武器Cは不服そうな表情のまま、階段を上がっていった。
砲隊A「……すまなかった。とにかく落ち着いて、よく聞いてくれ」
砲隊Aは武器Cを見送ると、警戒の目を向ける村人達に、言い聞かせるように話し始める。
砲隊A「こんな状況じゃ疑いたくなるのも無理はない。だが、俺達はあんたらに危害を加えるつもりはない。 それに、俺達もヤツ等から攻撃を受けたんだ」
草風E「そんなこと……!」
草風村長「よしなさい……」
村人の言葉を遮り、部屋の隅から声が聞こえて来た。
草風E「村長?」
草風村長「その人の言ってる事はおそらく本当なのだろう……奴等の指金の者だとしたら、回りくどい事はせず、見つかった時点で皆殺しにしておっただろうからな……」
声のした方向に目をやると、地下室の奥の壁際に横たわっている壮年の男の姿が目に映った。
砲隊A「失礼、あなたがここの代表者か?」
草風村長「ええ、まぁ。ここの村長をやらせてもらってます、草風村長といいます」
砲隊Aは横たわる草風村長の所まで近づく。
砲隊A「ッ、こりゃひでぇ……」
近づいてみると、草風村長の衣服には血が滲んでいた。
草風村長「戦える者を指揮していたのですが、その最中に負傷してしまいましてな……年甲斐のない事はするものではないな」
草風村長はそう言って笑うがその顔色は悪く、言葉尻にも苦痛が見て取れた。
草風村長「あんた方、確かにあやつらとは雰囲気が違うが……旅の方か?奴等に出くわして無事だということは、腕は覚えはお有りなのだろうが……何にせよ、今村はこのような有様だ。早くここを去ったほうが良い……」
砲隊A「そんな訳にはいかんよ。村長さん、連中は一体なんなんだ?ここで一体何が起こって……」
砲隊Aは尋ねようとしたが、突如上階から聞こえて来た銃声がその言葉を遮った。
砲隊A「チッ!!」
草風F「!?」
草風G「な、何!?」
聞こえて来た銃声に、砲隊Aは舌打ちをし、村人たちは動揺する。
武器C『砲隊A士長!来てください!』
そしてインカムから武器Cの声が飛び込んで来た。
草風村長「今の音は?奴らの魔法か……?」
砲隊A「説明は後でする!皆こっから出ないでくれよ!」
村人達にそう叫び、砲隊Aは階段を駆け上がり、上階へと出る。上では、武器CがMINIMI軽機を構えて、納屋の扉から外へ向けて発砲していた。
砲隊A「敵か!?」
武器C「北東の方向から来てます!十名前後!」
扉の先を覗けば、こちらへ迫ってくる複数の傭兵が目に映る。
砲隊A「さっきの調べてた奴等が伝令でも出してたか!武器C!上に上がって軽機を撃て、一階は俺が守る!」
武器C「了解!」
武器Cは近くの梯子へ飛びつき、納屋の中二階へと上がって行く。
砲隊A「ハシント応答を、こちらケンタウロス2-1。 先にある納屋の地下で、避難していたここの住民を発見した。だが敵も嗅ぎ付けたらしい、多数がこっちに迫ってる。応援を!」
82車長『了解、ケンタウロス2-1。だが、こっちも負傷者の収容にもう少しかかる。なるべく急ぐが、少しの間持ち堪えてくれ』
砲隊A「了解ハシント、できるだけ早く頼みます」
通信を終えると同時に、軽機の発砲音が一区切りする。砲隊Aが外を伺うと、迫っていた傭兵達の内の数名が亡骸となって周辺に横たわっていた。
砲隊A「武器C、どうだ!?」
武器C「数人逃しました!脇を通って反対側に、裏に回る気です!」
砲隊A「俺が対応する、お前は正面を抑えろ!」
指示を飛ばすと、砲隊Aは納屋の反対側へと向う。外から押し開こうとしているのだろう、納屋の反対側の扉が音を立てている。砲隊Aその扉の前に陣取り、銃口を向ける。
傭兵AA「だぁぁッ!」
そして扉が押し開かれ、傭兵数名が入り込んで来た。
傭兵AA「うがッ!」
傭兵AB「げぇッ!?」
しかし、扉が開いた瞬間に砲隊Aは引き金を引き、雪崩れ込んできた傭兵達は攻撃に移る前に射殺されてゆく。
傭兵AC「オラぁぁッ!」
砲隊A「うるせぇッ!」
傭兵AC「ヅ!?」
最後尾の傭兵は剣を手に切り掛かって来ようとしたが、その前に顔面を撃ち抜かれて絶命した。
砲隊A「よし……!」
それ以上敵が来ないのを確認し、扉の先を覗く砲隊A。
砲隊A「ッ!」
だが、覗いた先に敵の騎兵が見えた。
西側の建物の影から三騎の騎兵が現れ、こちらへと迫ってくる。
武器C「士長、奥から騎兵です!突っ込んできます!」
一方、中二階から武器Cが叫ぶ。武器Cの見張る東側からも、三騎程の騎兵が納屋へ向けて迫ってきていた。
砲隊A「こっちからも来てる、挟み撃ちだ!」
武器C「糞!」
砲隊A「抑えろ!接近させるな!」
武器Cは突っ込んでくる騎兵に対して発砲、5.56mm弾が騎兵達へと降り注ぐ。
傭騎兵集団A「うぐぁッ!?」
「ヅァ!?」
「ぐぁッ!?」
納屋から降り注いだ銃弾の雨に晒され、騎兵達は地面へと倒れて行く。
砲隊A「そらよッ!」
砲隊Aは西側から迫る騎兵達に向けて、手榴弾を投擲。
傭騎兵集団B「ぐぉッ!?」
「がぁッ!?」
手榴弾は先頭の馬の足元に落ちて炸裂、騎兵達を愛馬ごと吹き飛ばした。
傭騎兵C「ッ……!うぉぉッ!」
砲隊A「!?」
しかし最後尾の一騎は爆発を逃れ、速度を落とさずに納屋へと迫る。
砲隊A「野郎!」
砲隊Aは納屋の目前まで迫った騎兵に向けて発砲。
傭騎兵C「ぁッ!?」
銃弾は騎手の頭部に命中し、彼の命を狩った。しかし馬の勢いは消えず、納屋へと突入して来る。
砲隊A「ッ!やべ!」
その様子を見た砲隊Aは慌てて身を隠す。操り主を失った暴れ馬は、納屋の大扉を破って内部へと侵入、その先の壁に激突して地面に倒れ、ようやく動きを停止した。
砲隊A「ッ、びびらせるな糞!」
砲隊Aは倒れもがく馬に目をやりつつ、吐き捨てる。
武器C「士長、こっち側さらに来ます。左右二ヶ所からそれぞれ一個分隊ずつ!」
砲隊A「チッ!」
しかし息つく間もなく更なる敵の接近が報じられ、砲隊Aは舌打ちをしつつ東側へと回る。
北東側と南東側にあるそれぞれの建物の影から、合わせて十数名の傭兵が現れ、こちらへと迫る姿が確認できた。
武器C「どんだけ躍起になってんだ!」
武器Cは悪態を吐きながら、迫り来る傭兵に向けてMINIMI軽機による弾幕を張っている。しかし次の瞬間、そんな武器Cのすぐ側を一本の矢が掠めた。
武器C「ッ!――糞が、矢が飛び込んで来た!」
砲隊A「どっから飛んできた!?見えたか!?」
武器C「おそらく南東の建物!」
砲隊A「よし!」
砲隊Aは報じられた建物に潜むであろう弓兵を仕留めるべく、そちらへ向けて小銃を構え、照準を覗く。
砲隊A「――は?」
だが、その瞬間砲隊Aの目に飛び込んで来たのは、敵の弓兵の姿ではなかった。
宙に浮かぶ煌々と燃える三つの火球が、それぞれ微かに違った軌道を描きながら、こちらへ向けて迫っていた――。
砲隊A「マジか――ッ!武器C、隠れろッ!」
砲隊Aは叫ぶと同時に、納屋の内側へと引き込む。その次の瞬間、飛来した三つの炎の玉は、納屋の各所へと命中し、熱と炎を撒き散らした。
砲隊A「ヅッ!……クソ、武器C無事か!?」
武器C「生きてますが……ふざけてやがる!ゲームじゃあるまいし!」
砲隊A「待ってろ、今のは俺がやる!」
先の火炎攻撃は弓撃と同じく、南東側の建物から飛んできた。そこにいるであろう敵を仕留めるべく、砲隊Aは小銃を構えて影からわずかに身を出す。そして窓に見えた人影に向けて、素早く二度引き金を引き発砲した。しかし命中弾は確認できず、砲隊Aは一度影に引き込む。その瞬間に敵の応射が有り、近くの壁に矢が突き刺さった。
砲隊A「危ねッ!ヅッ……野郎!」
砲隊Aは再度身を乗り出し、先程と同様に発砲。今度は命中し、人影が窓の奥へ倒れるのが見えた。
傭兵集団C「ぐぁぁッ!?」
「うぁッ!?」
「うぎゃぁ!?」
一方、中二階からは武器Cの操るMINIMI軽機の発砲音が唸り続け、迫る傭兵に銃火を浴びせ続けている。
武器C「南東、北東の両側から次々突っ込んできます!」
砲隊A「押し切らせるな!ヤツ等――!?」
言いかけた砲隊Aの目に入って来たのは、再び飛来する炎の玉の群れ。先程射殺したのは火炎弾の主ではなかったらしい。砲隊A等が身を隠した直後、火球の群れは各所に着弾し、納屋の外側の各所で燃え広がった
砲隊A「糞がッ!野郎まだ生きてやがる!」
武器C「一歩間違えばこんがり焼けちまうぜ!」
火炎弾の命中精度は高くないようだが、内部へと飛び込んで来ない保証は無く、砲隊A等は身を隠しながら冷や汗を流す。
その間にも地上からは、軽機の発砲が止んだ隙を突いて、傭兵達が納屋へと迫っていた。
武器C「銃撃が止んだ隙に群がってきやがった!クソッタレ!」
砲隊A「火の玉はヤツ等なりの支援射撃かッ!武器C、お前は納屋の正面に集中しろ!」
武器Cに指示を飛ばしてから、砲隊Aはサスペンダーの手榴弾を掴み取り、南東側から迫る傭兵に向けて投擲。
傭兵集団D「ぐぁぁッ!?」
「ぎゃぁッ!?」
投げた先で手榴弾は炸裂。向って来ていた傭兵の内、炸裂地点付近にいた数名が、爆風と破片を受けて吹き飛んだ。
砲隊A「今ので手榴弾は空っ欠だ!」
砲隊Aは小銃を構え直し、手榴弾の爆発を逃れた傭兵を照準に収めて発砲する。
傭兵AD「げッ!?」
放たれた銃弾が傭兵を仕留めるが、同時に砲隊Aの小銃は弾切れとなった。
砲隊A「再装填する!」
武器C「了解!」
砲隊Aは武器Cに再装填作業に入る旨を伝えると、遮蔽物といている壁に背を預け、弾倉の交換にかかる。
草風F「痛ッ……クソ……!」
砲隊A「ッ、おい!?」
地下階段の出入り口から上って来る、村人の姿に気がついたのはその時だった。
草風F「ッ、これは……!一体どうなってる……!?」
草風E「草風F、危ないよ!」
傷を押さえながらも階段から身を乗り出した村人は、戦闘により荒れた納屋の内外の様子に目を見開く。
その彼の後ろから、別の村人が追いつき、制止の言葉を発しながら、村人に縋りついた。
砲隊A「何出てきてんだ、危険だぞ!」
草風F「こんな状況だぞ……!戦わなくてどうする!?」
砲隊A「そうは言うがな……!」
村人を地下へ戻すための、説得の言葉を探す砲隊A。
草風F「ッ!」
砲隊A「うおッ……!」
しかしそこへ、三度の火炎弾の群れが襲い来る。火球による攻撃を幾度も受けた納屋は、各所が燃え上がり、内外には煙が立ち込め出していた。
武器C「士長、やばいですッ!火の玉の攻撃が邪魔で、接近する連中を捌き切れないッ!」
草風F「見ろ!ヤツ等がそこまで迫ってるんだろう、じっとしてろと言うのか!?」
砲隊A「気持ちは分かるが、危険――」
傭兵AE「うぉぉッ!」
言いかけた砲隊Aは、しかし言葉を止めて視線を起こす。砲隊Aの目に、納屋の反対側の入口から侵入し、剣を片手に突っ込んで来る一人の傭兵の姿が映る。
傭兵AE「ぎゃッ!?」
砲隊Aはすかさず小銃を構えて発砲。発砲音と同時に傭兵の口から悲鳴が上がり、傭兵はその場に崩れ落ちて沈黙した。
草風F「な……!?」
草風E「え……い、今の何……!?」
砲隊Aの一連の行動に、二人の村人は目を剥く。
砲隊A「後だ!いいから、隠れてろ!」
しかし砲隊Aは説明している暇はないと、村人達を強引に階段の下へと押し込むと、反対側の入口の防御に回る。
武器C「ゴホッ!煙で視界がッ……このままじゃ本気でヤバイッ!」
砲隊A「銃火を絶やすな!ヤツ等も無限じゃねぇはずだ!」
武器Cにそう言ってから、砲隊Aはインカムに向けて怒鳴る。
砲隊A「こちらケンタウロス2-1、誰か聞いてるか!?納屋にて敵の集団に囲まれ、なおかつ火炎弾の脅威に合っている!このままじゃ俺達も住民も危険だ、応援はまだか!?至急――!」
納屋の南東側に位置する建物の二階。
傭兵AF「このッ!」
一人傭兵が窓からクロスボウを構え、納屋に向けて撃ち放つ。
傭兵AF「ヤツ等、よくわからん魔法を撃つ回数が減ってきた!あと少しだ!」
傭兵AG「ああ……だがよぉ……」
傭兵の一人が窓の外に目を向ける。納屋の周辺には、味方の死体が大量に転がっていた。
傭兵AG「クソ商議会のヤツ等……楽な仕事じゃなかったのかよ!」
傭兵リーダー「落ち着かんか」
傭兵は悪態を吐いた傭兵を、部屋の端にいるローブの男がなだめる。
傭兵隊リーダー「俺達みたいな傭兵に回ってくるような仕事だ、淡い期待は捨てろ」
傭兵AG「そうかもしれませんが、リーダー……!」
傭兵リーダー「それよりも……見てみろ!」
リーダーと呼ばれた男は窓の外を示す。
傭兵リーダー「燃えていく、燃えていくなぁ!いい眺めだ!」
窓から見えるのは、幾度もの火炎攻撃により燃え上がる納屋。
傭兵AF「……」
傭兵リーダー「きっと中で怯えているだろう。囲まれる恐怖に、殺される恐怖に、焼け死ぬ恐怖に!これが見たくて俺は傭兵をやっているんだ!」
傭兵リーダーは心底楽しそうな表情で言う。納屋に向けて炎の玉を撃ち込んでいたのは、この男だった。
傭兵AF「……まぁ、今回は報酬もでかい。その代償と思って割り切るかしかねぇ……」
傭兵AG「クソ、なんでもいい!とっとと終わらせちまおう!村人を皆殺しちまえば終わりなんだろ!?」
傭兵リーダー「そう焦るな、あと少しだ」
傭兵リーダーはそう言うと、両手を窓から納屋に向けてかざし、詠唱を開始しようとする。しかし次の瞬間、傭兵リーダーの行動を遮るように、突如、彼等の背後で崩落音が響いた。
傭兵リーダー「!?」
傭兵AF「な!?」
傭兵達が背後へ振り向くと、部屋の壁の一部が破られていた。
傭兵AG「な……ひッ!?」
そして、そこから突っ込んで来た何かに、傭兵の一人が悲鳴を上げる。
自衛「よぉ、勝手に上がるぜ」
傭兵達の目に映ったのは、大柄で、そして醜く恐ろしい顔をした、ホラー映画から飛び出してきたかのような人物だった。
壁を突き破り、自衛は傭兵達の陣取る部屋へと踏み込んだ。広くは無い部屋で、お互いの距離はほとんど白兵距離だ。
傭兵AF「ッ!はぁぁッ!」
一番近い位置に居た傭兵が真っ先に反応し、手にした剣を振り上げ、切り掛かって来る。
自衛「あぁ、茶はいらねぇぞ」
だが、自衛が鉈を振るう方が速かった。
傭兵AF「あ……!?がぇ……?」
横殴りに襲い掛かった鉈は、傭兵のこめかみ部分に叩き込まれた。
傭兵AF「げぁッ」
そして傭兵は、そのまま近くの壁へ体ごと叩き付けられる。
叩き付けの勢いによって、傭兵のこめかみ部分に刺さっていた鉈は、彼の頭部を完全に切断。頭の上半分はまるで蓋のように綺麗に落ち、切断面から血が噴出。傭兵は血を撒き散らしながら地面へと崩れ落ちた。
傭兵AG「ひっ、うわぁぁ!?」
仲間の死に狼狽するもう一人の傭兵。自衛は、傭兵を切断しきって壁に刺さった鉈を引っこ抜く。
傭兵AG「あ……こ、この野郎ォ!」
傭兵は恐怖と混乱に襲われながらも、自衛に剣を振り上げる。
自衛「邪ぁ魔だ」
傭兵AG「ヅッ!?」
自衛の振るった鉈が傭兵の持つ剣を吹き飛ばし、剣が壁に突き刺さった。
傭兵AG「しまッ!………え?」
慌てて予備の短剣を抜こうとした傭兵だが、そこで自分の右手の違和感に気付く。傭兵の右手は手首より先が無くなっていた。
傭兵「え――あ……ああああッ!?」
そして切断面から血が噴き出し、傭兵は絶叫を上げた。
傭兵リーダー「チッ!」
部屋の隅にいる傭兵リーダーは、両手を突き出して詠唱を始める。
傭兵リーダー「――……精霊よ、我が手元に!」
短い詠唱を終えると、傭兵リーダーの手元にバスケットボール程の炎の玉が形成される。そして彼は、出来上がった火炎弾を撃ち放った。
傭兵リーダー「苦しめ!焼け焦げろ!」
傭兵リーダーは自衛に向けてそう叫んだ。火炎弾が自衛に向けて迫る――
自衛「お前でいい」
傭兵AG「は――?」
しかし、自衛は傭兵の体を掴んで、火炎弾の進路上に放り出した。火炎弾の進路を傭兵の体が遮り、火炎弾は傭兵に直撃。
傭兵「あぎゃあああああッ!?」
傭兵の体は炎に包み込まれた。
傭兵リーダー「なッ!?そんな事が!?」
自衛「注文違いだ」
自衛は鉈の背で燃え上がる傭兵の体を退け、地面へ転がす。
傭兵リーダー「馬鹿な!クソッ!」
悪態を吐きながらも再び両手を突き出し、詠唱を開始しようとする傭兵リーダー。
自衛「よぉお」
傭兵リーダー「!!」
だがそれより前に、自衛は傭兵リーダーの目の前に踏み込んだ。
傭兵リーダー「ゴボッ――!?」
そして自衛は傭兵リーダーの腹に鉈の柄を叩き込み、彼の詠唱を阻止する。
傭兵リーダー「ごぁ……ッ?」
そのまま傭兵リーダーの頭部を鷲掴みにし、壁に叩き付ける。そして手を放すと同時に、傭兵リーダーの頭部に鉈を叩き込んだ。
傭兵リーダー「ごげッ――!?」
頭頂部から叩き込まれた鉈は喉仏あたりまで食い込み、傭兵リーダーの頭部は文字道理真っ二つに割れた。
自衛「頼んでも無ェモンばっか寄越しやがって」
自衛は傭兵リーダーの頭から鉈を引き抜くと、亡骸と化した傭兵リーダーを横へ転がした。
隊員C「おい自衛、一階の連中は黙らせ――げ!?」
支援A「ファォ!」
制圧が終わった部屋内へ、隊員Cと支援Aが駆け込んで来る。そして隊員C等は部屋内の惨劇を見て驚きの声を上げた。
自衛「よぉ、一階は片付いたか」
支援A「あぁ、こっちほどトマトパラダイスじゃねぇけどな!」
隊員C「うっぇ……もうちっと穏やかにやろうたぁ思わねぇのかよ……?」
自衛「ご丁寧な意見をありがとよ」
隊員Cの言葉を流して、自衛は特科隊へ通信を開いた。
自衛「ケンタウロス2-1聞こえるか?こちらジャンカー4だ」
砲隊A『ジャンカー4か、今どこだ!?こっちは今にも押し切られそうだ!』
自衛「南東側の建物二階を制圧、火炎のゲロを吐いてた野郎は潰した。そっちに行くから撃つんじゃねぇぞ」
砲隊A『了解、とにかく急いでくれ!』
通信を切った所で、支援Aが燃える納屋を示して叫ぶ。
支援A「ヘイ、めっちゃ燃えてらぁ!やばいんじゃねぇかぁ!?」
自衛「分かり切った事を喚くな。隊員C俺と来い、支援Aはここに残って援護しろ!」
隊員C「あー、へいへい!」
自衛「行くぞ」
自衛と隊員Cは窓枠を乗り越えて、地上へと飛び降りる。同時に建物二階の窓から、支援AがMINIMI軽機による射撃を開始。納屋へ群がっていた傭兵達に、弾丸を横殴りに浴びせ出した。
傭兵集団E「うがッ!?」
「な!?あそこはリーダー達の居る建物じゃ――ぐぁッ!?」
群がる傭兵達は倒れ、地面に横たわる仲間の死体へと加わって行く。
隊員C「見ろ、死体だらけだぜ!どんだけ躍起になってんだアイツ等!?」
自衛「連中のお目当てがあんのかもな」
自衛等は転がる傭兵達の死体を横目に見ながら、納屋へ向うべく道を横断する。その最中、自衛等の耳は戦いの音の中に混じる、唸るような音を捉える。
隊員C「見ろ、指揮車もご到着だ」
道の先に目を向けると、こちらへ向ってくる指揮車のシルエットが目に映る。自衛と隊員Cが道を渡り切ると同時に、その背後を指揮車が駆け抜けた。
隊員C「とぉッ!」
自衛「駆け込め!」
自衛と隊員Cはそのまま駆け抜け、納屋へと転がり込んだ。
砲隊A「やっと来たか!正直かなりやばかったぞ!」
自衛「あぁ、だが元気そうで何よりだ」
隊員C「うれしいだろ?救世主様だぜ、クソッタレ!」
言いながら、砲隊Aや武器Cへ予備弾薬を投げ渡す自衛達。
自衛「隊員C、お前ぇは反対側を見張れ!」
隊員C「了解了解!」
隊員Cは納屋の西側入口へと向う。一方、指揮車は納屋の正面入口を塞ぐように停車。迫る傭兵達の前へ立ちふさがった。
82車長『遅くなって悪い!今、黙らせる!』
車上の82車長が、50口径の銃口を傭兵達へと向ける。
傭兵AH「な、なんだコイツはぁ!?」
82車長「悪いな、終わりだッ!」
82車長は発すると同時に、50口径の押し鉄に力を込める。
傭兵AH「がげッ!?」
傭兵集団F「バケモ…がッ!?」
「うぎゃッ!?」
50口径は咆哮を上げ、群がる彼等を片っ端から弾き飛ばし始めた。
傭兵AI「がぁッ!?」
50口径の掃射を逃れた傭兵も、砲隊A達の銃撃に仕留められていく。
砲隊A「ッ……自衛、ここは長くは持たない!地下の住民を避難させる必要がある!」
傭兵達の攻勢は収まりつつあったが、火災は激しさを増し、煙は納屋全体を包み込みつつあった。
自衛「避難先のアテは?」
砲隊A「俺達が来た道を戻れば、損傷の軽い建物がある。そこまで連れて行く」
自衛「いいだろう、周辺の確保はこっちでやる。お前は住人に脱出の準備をさせろ」
砲隊A「頼む!」
砲隊Aは身を隠していた壁から離れ、階段付近にいる村人たちへと駆け寄る。
草風F「……信じられない、傭兵達があんなにあっさり……!」
草風E「すごい……」
村人二人は覗き見える戦闘の様子を、唖然としながら見つめていた。
砲隊A「おい、あんたら!」
草風F「!」
砲隊A「この納屋はまずい。ここから避難するぞ、下の皆に知らせるんだ!」
草風F「避難、あの中をか……!?それに、地下には歩けない負傷者も居る……!」
砲隊A「大丈夫だ、ヤツ等の攻撃の勢いは衰えてる。負傷者の搬送は俺達が手伝う。信じてくれ、このままじゃ村人揃って燻製になっちまうぞ」
草風F「……あぁ、分かった!」
砲隊A「自分で歩けない人は何人居る?」
草風F「村長を含めて四人、後は大丈夫だ」
砲隊A「よし、南にある建物まで俺達が誘導する。下の人たちへは、あんた達から説明してほしい。そのほうが皆安心するだろう」
砲隊Aは村人二人と共に、地下への階段を下って行く。
自衛「ハシント聞こえるか?ケンタウロス2-1が住民を南へ避難させる。残りの敵はどんくらいだ?」
82車長『群がって来るのはほとんど弾き飛ばした、あと少しだ』
自衛「よぉし、残りの掃除を頼むぞ。避難路はこっちで確保する」
傭兵集団G「うがぁッ!?」
「こんなことが……ぐげッ!?」
指揮通信車の50口径による正面からの砲火、そして各建物に陣取った支援Aや武器CのMINIMI軽機による銃撃。これらに晒された傭兵達の勢いは目に見えて衰えていく。
そして数分後には、納屋へと迫る傭兵達の姿はほとんど無くなり、それに伴いこちら側の銃声も鳴りを潜め出していた。
砲隊B「収まってきたか……脱出準備は?」
武器C「整ってる」
納屋の内部から外の様子を伺う隊員等。
彼等の後ろでは、納屋の入口近くから地下階段にかけて、住人達が列を作って脱出に備えていた。
砲隊B「皆さんいいですか?ここを出たら道を南下して、先の十字路まで向います。そこにある家……えーと、草風Eさん?」
草風E「ええ……私の家よ」
武器C「悪いな、勝手に避難先にしちまって」
草風E「別にいいわよ、こんな時だし」
砲隊B「向こう到着したら、彼女の家に避難して下さい。そこまでは我々が先導します」
草風E「……」
草風D「ねぇ、草風E……この人達、信じて大丈夫なのかな……?」
草風Eの後ろにいる草風Dが小声で話しかける。彼女の表情には不安の色が浮かんでいた。
草風E「少なくとも敵ではないみたい、目的はよく分からないけど」
草風D「でも……」
草風E「胡散臭い気もしなくはないけど……膝を抱えながら焼け死ぬよりマシよ。それよりあなたは子供たちをよく見てて」
草風D「う、うん」
草風Eはそう言って草風Dを落ち着かせた。
砲隊B「ハシント、敵影は見えますか?」
82車長『ほとんど無し。大丈夫だろう、避難を開始してくれ』
砲隊B「了解」
指揮通信車からの指示を受け、砲隊Bは村人達に大声で言い放つ。
砲隊B「避難を開始します!列を乱さず、落ち着いて我々に続いてください!」
そして住民達の避難が始まった。
砲隊Bが合図と共に先頭を切って外へと踏み出し、待機していた住民達がそれに続いて脱出を始める。
武器C「道のど真ん中には出るな!建物の影に隠れるように進んでくれ!」
住民達は武器C等の護衛を受けながら、避難先の建物を目指した。
そうして脱出が進む一方、納屋内では負傷者の搬送が行われていた。
砲隊A「持ち上げるぞ、ちょいと我慢してくれ」
草風村長「ッ、すまん……」
納屋内には小型トラックが乗り入れられ、その荷台に村長を含む重傷者が載せられてゆく。
草風村長「しかし……本当にヤツ等を……?」
砲隊A「ああ、なんとか防ぎ切った。だから安心してくれ」
草風村長「そうか……」
砲隊Aの言葉に、草風村長は安堵の声を漏らした。
自衛「終わったか?」
砲隊A「重傷者は皆乗せた。早いトコ向こうに連れてって手当てしないと」
自衛「じいさん、あんたがここの村長だって?事情は掴めんが、災難だったな」
草風村長「あ、ああ……それより、あんた方こそ一体何者なんだ……?」
砲隊A「そういや、俺等の事もほとんどなんも説明してなかったか」
自衛「お互い色々聞きてぇ事は山盛りだな。だが、話は後でゆっくりしようぜ」
草風村長「……そうだな」
自衛「衛生、いいぞ」
衛生「了解。皆しっかり掴まっててくれ」
小型トラックは納屋から発進。村長等負傷者はジープで避難先の建物へ後送されて行った。
自衛「他は誰も残ってねぇな?」
砲隊A「一応確認する、待ってくれ」
砲隊Aは確認のため納屋の地下へと向う。
自衛「支援A、避難はほぼ完了だ。こっちに合流しろ」
支援A『オーケーベイビー』
自衛「急げよ。82車長、いいか」
自衛は反対側の建物に陣取る支援Aへ撤収を伝えると、指揮通信車の車上で警戒を続ける82車長へ声を掛ける。
82車長「どうした?」
自衛「ぶっ倒れてる連中の中に、生きてるのは見えるか?」
82車長「あん?あー……一人二人ほど息のあるっぽいヤツが見えるな」
自衛「よぉし。隊員C来い」
隊員C「あー?今度はなんだよ?」
自衛は指揮通信車の背後で、別方向を見張っていた隊員Cを呼びつける。
自衛「連中を何人か確保するぞ。俺と隊員Cで息のあるヤツを引きずって来る」
隊員C「はぁ?マジかよ」
自衛「82車長、こっから支援してくれ。隊員C行くぞ」
82車長「おいおい!」
隊員C「やれやれ……!」
言うと自衛は指揮車の影から飛び出し、倒れている傭兵のところへ駆け込んだ。
隊員C「糞がッ!」
続いて隊員Cが駆け込み、周囲を警戒する。
自衛「こいつと……こいつも生きてる。隊員C、お前はこいつを引きずってけ」
そして息のある傭兵の首根っこを掴み、指揮通信車のところまで引きずって戻る。
82車長「無茶すんなよ……」
自衛「だが収穫だ、コイツ等を連れてくぞ。隊員C、応急手当をしてやれ」
「へぇへぇ……」
引っ張ってきた傭兵の体を、指揮通信車の後部扉を開けて収容する自衛等。そこへ支援Aと、確認を終えた砲隊Aが戻ってきた。
砲隊A「残ってる住人は居ない。大丈夫だ」
自衛「よぉし、撤収だ」
最終確認の後、自衛等は指揮通信車と共にその場から撤収した。
納屋から脱出した捜索分隊は、草風B達を発見した十字路まで退避。そこにある民家へ住人達を避難させ、周辺の守りを固めている。
自衛「武器C、軽機を持って反対側の建物二階に行け。あそこなら見渡せるはずだ」
武器C「了解」
82車長「シキツウは北側の道を塞いどきゃいいよな?」
自衛「ああ、ヤツ等北から沸いて出て来たみてぇだからな」
民家の玄関脇で防衛の相談をする自衛と82車長。
それが一区切りつくと、82車長一軒の家屋に近づいて窓越に中へ声を掛ける。中では、砲隊A等が住民の救護に当たっていた。
82車長「住民の人達はどうだ?」
砲隊A「俺等にできる範囲の手当てはやりました。村長さんみたいな重傷者は、衛生任せです」
82車長「そうか、分かった。後は緊急部隊が来るまで固守だな……」
82車長は屋内を見渡す。当面の脅威こそ逃れたものの、住人達の表情は不安で染まっていた。
草風G「……神様、どうかあの人を……」
草風H「お父さん……お母さん……」
そして家族や知人を想い、心配する声が聞こえてくる。
82車長「……無事だった人はこれで全部なのか?」
砲隊A「納屋の地下に隠れてたのは、全体の三分の一くらいだそうです。他の住人は、連中を迎え撃つために出て行ったか、逃げ遅れたか……」
自衛「だが死んだと決まった訳じゃねぇ、捜索したほうがいい。隊員C、支援A!」
十字路で警戒に当たっていた両名を呼び寄せる。
支援A「ほわーっつ?」
隊員C「チッ、今度はなんだよ!?」
自衛「他にも生存者が居ないか捜索に行く、ついでにヤツ等の残党狩りもな。準備しろ」
支援A「フゥー、つまり延長戦ってわけだぁ!」
隊員C「マジかよ……」
自衛「ここで燻ってても時間の無駄だからな。82車長、こっちは頼むぞ」
82車長「分かった、気をつけろよ。何かあれば無線で知らせる」
生存者を探しに出た自衛達は、村の南西側の捜索を行っていた。周囲に目を配り、警戒しながら道を進む。
隊員C「どこまで糞ッタレなんだぁ……皺くちゃ、化け蜘蛛、野盗共と続いたかと思や、今度は放火魔ときた!」
自衛「一々喚くな、鬱陶しい」
隊員C「俺等が動く度に、一々茶々入れて来やがるんだぞ?愚痴の一つでも吐かねぇとやってらんねぇっつの!」
自衛「こんな時じゃなくても吐いてるだろ。車の排気ガスみてぇによ」
支援A「ハハハハハッ!」
隊員C「ああ、そうだな。このまま吐き続けて、身体に悪ーいガスで世界を覆ってやろうか?そうすりゃ、みんな仲良くくたばって、面倒の無い静かな世界になる」
自衛「地球にやさしい存在になるべく、努力しようとは思わねぇのか」
隊員C「じゃあ、まず上質な燃料を寄越してケアして欲しいモンだねぇ。そこらへん適当で、悪路続きじゃ、そりゃぁ吐き出す排気を黒くなるってもんだぁ」
そんな不毛な会話を繰り広げつつ進んでいた所へ、通信が入って来た。
82車長『ジャンカー4、自衛応答してくれ。こちらハシント』
自衛「こちらジャンカー4、どうした?」
82車長『今さっき、展開部隊から通信が入った。集落を目視できる位置まで来てるらしい、後数分で合流できるそうだ』
自衛「了解、こっちは特に変わり無しだ。またなんかあれば知らせてくれ」
通信が切れると、それを聞いていた隊員Cが再度愚痴り出す。
隊員C「チッ、増援の到着はいっつも事が落ち着いてからだな。いいご身分だぜ」
自衛「うるせぇ。それより周囲にちゃんと目を配れ」
隊員C「へいへい、分かった分か――ッ!」
適当に返そうとした隊員Cだったが、途中で言葉を切る。
自衛「どうした?」
隊員C「あれ見ろ……!」
そして前方の民家を指し示す隊員C。その民家の壁際から路地裏までの地面に、何かを引きずったように血の跡が続いていた。
支援A「うわーお、ホラーなシチュエーションだぜぇ」
隊員C「アホな事言ってんな!怪我人が逃げ込んだアレは!」
自衛「調べるぞ。支援A、お前は周囲を見張れ」
支援Aに周辺の見張りを任せ、自衛と隊員Cは路地の先を確認する。
隊員C「ッ!当たりだ」
路地の少し奥には、一人の村人が横たわっていた。
隊員C「俺が行く」
隊員Cが路地へと入り込み、村人の容態を確認する。
自衛「息は?」
隊員C「待て……ある!だが、かなり弱ってやがる……!」
自衛「とにかくここじゃまずい、引っ張り出してどっかに移すぞ」
自衛等は生存者を路地から引っ張り出すと、すぐ側の民家内へと運び込んだ。
草風I「ッ……ぁ……」
隊員C「格好からしてここの住人だな。おい、しっかりしろ!」
声をかけるも、村人自身の意識は朦朧としていて反応は無い。そして村人の衣服は、各所に血が染み込んでいた。
隊員C「チッ、どこが傷口だぁ?」
自衛「右腕だ、こっから血が流れて服に染みたんだろう。タオルあるだろ、寄越せ」
自衛は村人の衣服の右腕の部分を破き、傷を確認。傷口にタオルを当てて腕に巻き、止血を施す。
隊員C「ッ、この失血量はまずいんじゃねぇか……?」
自衛「言われるまでもねぇ、急ぐぞ。支援A、コイツを運べ!」
支援A「任せな」
民家の玄関付近で見張りについていた支援Aが、村人に駆け寄り彼を担ぎ上げる。
自衛「ハシント応答しろ、ジャンカー4だ。生存者を一名確保、今からそっちに搬送する。生存者はかなりの失血を起こして危険な容態だ」
82車長『ハシント了解した。受け入れの準備をしておく』
自衛「頼むぞ、以上。よぉし、急ぐぞ」
自衛達は民家を出て、来た道を戻り出した。生存者の村人を担いだ支援Aを、自衛と隊員Cが護衛しながら進む。
事が起こったのは、しばらく進んで交差路に差し掛かろうとした時だった。
隊員C「ッ!おい前方!」
先行していた隊員Cが、進行方向を指し示しながら叫ぶ。それと同時に、交差路の向こうの建物の影から複数の人影が現われた。統一性のある装備を纏った者達。暗がりの中でも彼等が何者かはすぐに分かった。
自衛「敵だ」
自衛達は即座に近くの建物の影に実を隠す。自衛は遮蔽物に飛び込むと同時に、即座に傭兵達に向けて発砲。
傭兵AJ「ぐッ!」
傭兵側も自衛等に気付き、同様に身を隠そうとしていたが、放たれた弾が、隠れるのが遅れた一人の傭兵に命中した。
隊員C「ぬぉあっぶねぇッ!?」
しかし、それに入れ違うように傭兵側も矢を放ち、飛んできた矢がこちらの建物の壁に突き刺さる。
隊員C「ッ、反対側に分隊規模だッ!こんの急いでる時に、残りモン共が!」
遭遇した敵の規模を報告し、同時に悪態を吐く隊員C。
自衛「支援A、負傷者を遮蔽物に隠せ!」
支援A「ウンコタレ共!救急車には道を空けるって知らねぇのかよ!?」
支援Aは敵を罵倒しながらも、村人を遮蔽物の影に隠してその巨体で庇う。村人の安全を確保すると、軽機を構えて射撃を開始した。
自衛「とっとと下水の奥に流しちまえ!あまりここで燻ってる余裕は無いぞ!」
突破路を確保すべく、傭兵達の潜む反対側の家屋に向けて銃撃が加えられる。しかし、それに対して傭兵達もクロスボウで応射し。放たれた矢が自衛等の周囲を掠め、地面や建物に突き刺さる。
隊員C「うぜぇ……ちょっと進む度に邪魔してきやがって!」
支援A「ヘェイッ!例のが来るぜ!」
支援Aが叫んだ直後、およそ50cmほどの火球が飛来。
隊員C「いい加減にしろよ、糞――ッ!」
悪態を吐きながらも身を隠す隊員C等。飛来した火炎弾は近くの建物の壁に直撃。命中した箇所を黒く焦がした。
支援A「ハハァッ!ウェルダンのフェアが未だに開催中らしいな!」
自衛「あぁ、大不評につき中止になったのを、ヤツ等知らねぇらしい」
自衛等が軽口を叩く傍らで、隊員Cは家屋の手前に火炎弾を放った魔道士を確認。小銃を構え、その照準に捕らえようとする。だがその前に、魔道士は建物へと引き込んでしまった。
隊員C「野郎ッ、建物内に逃げやがったぞ!」
自衛「位置を変える気だな」
隊員C「糞うぜぇ。おい、吹っ飛ばしちまおうぜ!支援A、弾頭寄越せ!」
イラついた隊員Cは支援Aに無反動砲の予備弾頭を要求する。しかし支援Aは弾頭を渡そうとはせず、交差路の南側へ視線を向けていた。
隊員C「おい支援A!」
支援A「へい……聞こえねぇか?この音」
隊員C「あぁ?」
支援Aにそう言われ、隊員Cは聞き耳を立てる。耳に入って来たのは、聞きなれたキャタピラの音。その音は次第に大きくなる。そして――
支援A「来やがったぜッ!」
南へ伸びた道の先、建物の影から装甲戦闘車が姿を現した。さらにその後ろに、トラック二両と弾薬給弾車が続いて現われる。
FV車長『前方で交戦中の部隊、応答せよ。こちらエンブリー』
そしてインカムにFV車長からの通信が入った。
自衛「エンブリー、こちらはジャンカー4だ。負傷搬送中に敵と会敵し現在交戦中。
支援を要請する!」
FV車長『了解、敵の位置を知らせろ』
自衛「交差路南東側の建物。軽装兵数名と火の玉を飛ばしてくる奴がいる」
自衛が説明した次の瞬間、それを証明するかのように、建物から装甲戦闘車へ向けて火炎弾が飛来。飛来した火炎弾は装甲戦闘車の砲塔正面に命中した。
FV車長『ッ!――確認した。待ってくれ、すぐに黙らせる』
だがそれで装甲戦闘車が止まる事は無く、砲塔が建物の方向へ旋回する。
そして機関砲が唸り声を上げた。
吐き出された35mm機関砲弾の群れは、次の瞬間には建物の二階を木っ端微塵に吹き飛ばしていた。
傭兵集団H「な!?うわッ!?」
「ひッ!?
突然現われた装甲戦闘車からの攻撃。それにより仲間が建物ごと吹き飛ばされ、建物付近にいる傭兵達は混乱に陥った。
FV車長「FV砲手、建物の下にまとまってるぞ」
FV砲手「見えてます」
FV砲手の操作で、機関砲の砲身は混乱する傭兵達へと向く。
傭兵集団H「はがッ……!?」
「ぎッ…!?」
FV砲手の指で射撃ボタンが押され、再び吐き出される機関砲弾。建物の周囲にいた傭兵達は、その炸裂を直に受け、その身を肉片へと変じた。
隊員C「……静かんなったな」
自衛「エンブリー、攻撃を加えてくる敵は無し。対象は沈黙した」
FV車長『了解、そっちに合流する』
車列は自衛達の側まで前進して来て停車。装甲戦闘車の後部扉が開け放たれ、搭乗していた隊員等が降車を始める。
隊員G「よし、周辺を確保だ。隊員A、同僚と隊員Bを連れて建物を押さえろ。支援Bは俺と来てくれ、反対側を警戒する」
隊員A「は!二人とも行くぞ!」
同僚「はい」
隊員B「はいはい、っと」
降車を完了した隊員G率いる分隊は、装甲戦闘車の支援の元、交差路周辺へと展開を開始した。
衛隊B「あ、よいしょ」
その一方、車列の三両目に位置する大型トラックの荷台からは、衛隊Bが飛び降りる姿が見える。
彼女は荷台から折りたたんだ担架を引っ張り出して抱えると、普通科隊員が各方へ展開してゆく中を通って、自衛等の所へと駆け寄って来た。
衛隊B「自衛さん、負傷者の収容に来ました」
自衛「そこだ」
自衛は、遮蔽物の影から支援Aの手で抱え出されている負傷者を指し示す。衛隊Bはそこへ駆け寄ると地面に担架を広げ、支援Aにそこへ負傷者を寝かせるよう促す。応急処置キット一式をその場に広げ、負傷者の容態を聞いて彼の身を引き受けると、処置へと取り掛かった。
補給「自衛陸士長」
自衛「補給二曹。どうも」
その様子を眺めていた自衛に背後から声が掛かる。振り向けば、歩み寄って来る補給の姿が目に映った。
自衛と補給はお互いに軽く敬礼を交わす。
補給「他の連中はどうした?」
自衛「村の中心、こっから北東に少し行った所で守りを固めてます」
補給「そうか。報告では、ここの住人に多数の死傷者が出ていると聞いたが……?」
自衛「えぇ、今も衛生が片っ端から手当てをしてます。ですから収容が終わったら、車列はそっちに合流して下さい。手も足りねぇし、防護も不十分です」
補給「そうか、了解した。お前等はどうするんだ?」
自衛「俺等は引き続き生存者の捜索を行います。それに粗方は蹴飛ばしましたが、敵の生き残りがうろちょろしてる可能性がある」
自衛達が会話をしている間に、負傷者の応急手当は完了した。
衛隊B「よし……オッケーです。で、誰か担架を運ぶの手伝ってください」
自衛「隊員C、手伝ってやれ」
隊員C「わーったよ」
担架を持ち上げる隊員Cと衛生。二人の身長差のせいでやや不格好な形と動きだったが、どうにか足並みをそろえてトラックへ向かって行った。
補給「……しかし、酷い有様だな……」
負傷者を見送った後に周辺を見渡し、補給は表情を苦くする。
自衛「ふざけた事態の連続です。退屈しねぇ世界だ」
補給「そうだな……何か補充が必要なものはあるか?」
自衛「弾は大丈夫ですが、人手が数名あると楽になります」
補給「よし、何人かそっちに合流させよう」
自衛「頼みます」
そうしたやりとりをしている内に、負傷者の収容が完了。車列は避難所に向けて移動を開始、自衛等は車列と分かれ、捜索の続きに移った。
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